当店は按摩の専門店なのですが、お客さまから按摩って何ですか?、マッサージとはどう違うんですか?、整体とは違うんですか?といったご質問をよくうけますので、按摩とマッサージ、指圧、接骨・整骨(柔道整復術)や整体など他の療術との違いについて少しご説明させていただきます。

 

   

1.あん摩(按摩)とは

 

日本古来のマッサージともいえる「あん摩」はもともと中国発祥の手技療法で、約二千年前の中国の医学書「黄帝内経」に按摩の文字が記されており、日本に伝わった時期については諸説ありますが、養老律令(718年制定)に按摩に関する官制度が記載されているそうで、約千三百年ほど前ではないかと考えられています。

 

按摩の語源は、東洋医学の抑按調摩(よくあんちょうま)を略した学術用語で、按は押さえる、摩は撫でることを意味し「押さえることにより機能を抑制し、撫でることにより機能を整える」という治療法でありました。

 

江戸時代に現在に近い揉み主体の按摩が確立されたそうですが、鍼灸の台頭とともに慰安としての要素が強くなり、明治以降は西洋渡来のマッサージの影響もあり、現在、施術的には「マッサージ」として括られ認知されています。

 

また、江戸時代の盲目の鍼医、杉山和一を祖とする杉山流按摩術が世界初の視覚障害者教育として伝えられたことにより、按摩の施術を職業とする視覚障害者を「あん摩」または「あんまさん」と呼ぶようになります。

 

特徴としては、衣服の上から手指を使って揉む「揉捏法」を中心に、押す、擦る、叩くといった7つの手技を使って、心臓に近い方から手足の末端に向かって(遠心性)施術します。

 

また東洋医学を拠り所とするため、本来は経絡に沿った施術を行いますが、現在はマッサージ同様に解剖学的な筋肉や関節に対する施術を取り入れたものが主流となってきています。

 

健常者が多く従事するようになった現在でも、「あん摩」や「あんまさん」といった言葉については視覚障害者に対する蔑称と受け取られる向きもあり、テレビやラジオでは未だに放送自粛の用語としているところもあるため、治療院の看板や広告等においても、最近はマッサージとして表示されているケースが多いようです。

 


 

2.マッサージとは

 

西洋渡来の「マッサージ」の起源については、古代ギリシャの医聖ヒポクラテスが医学を志す者にマッサージの習得を奨励していたといわれていますので、紀元前4~5世紀の頃にはすでに行われていたことになります。

 

現代的なマッサージは、16世紀頃にフランスの医師アンブロワーズ・パレが治療としてのマッサージを体系化しその施術を広めました。

 

日本には明治20年代に、そのフランスで体系化されたものが導入され、現在は按摩や他の手技と融合したものが一般的にマッサージとして普及しています。

 

西洋式のマッサージは皮膚に直接触れて行うもので、手が滑るようにオイルやローション、パウダーなどの滑剤を使い、手足や身体の末梢の方から心臓に向かって(求心性)施術します。

 

また西洋医学を拠り所とするので、筋肉やリンパ、静脈系循環に対する施術が主となります。

 

手技の内容的には、現在ではリンパマッサージやオイルマッサージと呼ばれている施術が本来のマッサージに近いものということになりますが、アジア系の療術については、着衣の上から施術するものも便宜的にマッサージと呼んだりしています。

 

現在では、揉む、押す、叩く、撫で擦るなどの刺激を与え、疲労回復や健康維持を図る手技療法の総称に近い感じではないでしょうか。

 


 

3.指圧とは

 

いまは按摩より一般的になった印象もある「指圧」は江戸時代から民間施術としておこなわれていましたが、現在の指圧の原型は浪越徳治郎氏によって確立されていたといわれています。

 

昭和30年の法改正時に手技療法のひとつとして認められましたが、この時に指圧があくまで按摩の範疇に入っていたため、「指圧は按摩に非ず」と、指圧師団体が立ち上げられ、独立した手技として指圧院を開かれてるところもあります。

 

浪越氏の指圧学院は国内外で活躍する多くの卒業生を輩出し、海外ではSHIATSUがポピュラーであるため、手技的には按摩といえる施術も指圧と混同されている向きもあります。

 

※ 日本国内で按摩やマッサージ、指圧を職業として行うには「あん摩マッサージ指圧師」の免許、もしくは医師免許が必要となります。

 


 

4.整骨院・接骨院とは

 

近年、よく見かけるようになった「整骨院」や「接骨院」ですが、昔は「ほねつぎ」とも呼ばれ、捻挫や打撲、挫傷(肉離れ)や脱臼、骨折といったケガ(急性又は亜急性の外傷)を柔道整復術で治療する施術所になります。

 

あん摩マッサージ指圧やはり灸同様に療術業の施術所となり、国家資格の柔道整復師が施術をおこないますが、本来の業務範囲であるケガの治療において健康保険が適用されるために、病院や診療所(医院・クリニック)のような保険医療機関と誤認されることも多いようです。

 

そのルーツは戦国時代の武術ともいわれますが、養老律令の按摩師の業務範囲に現在の柔道整復術に類する記述などもあったことから、按摩と同様に千三百年ほど前が起源とされる説もあるようです。

 

本来の業務であるケガの治療については、受領委任という制度を使って健康保険が適用されますが、肩こりや慢性腰痛などへの施術や、疲労回復などのケアとしてのマッサージについては保険適用外となります。

 

昨今は、規制緩和による養成校の新設に伴い柔道整復師も急増したため、本来の業務範囲を超えた慢性症状への施術をおこなうところも多く、以前に比べて保険を使わない自費診療なども増えていますが、慢性症状をケガに置き換えた不正請求の問題もまだなくならないようです。

 


 

5.その他の療術業について

 

一般的に療術業として分類されている「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師の施術所」以外の療術業は「その他の療術業」として分類されています。

 

その中でも一番ポピュラーだと思われる「整体」は、起源については諸説あるようですが、用語としては大正時代に用いられるようになったそうで、源流のひとつとして昭和20年代に野口晴哉氏が古今東西の療術を統合し体系化して創始した治療法の名称ともいわれ、その野口氏の定義する整体は現在のような施術を受けるタイプの療術ではなく、自分自身で体調を整えられるように指導するという体育理論だったそうです。

 

現在の一般的な施術としては、脊椎(背骨)や骨盤や四肢(手足)などの骨格や関節の歪みの矯正と骨格筋の調整などを手技で行うものが主流のようですが、伝統中国医学や古武道の手技、カイロプラクティックやオステオパシーの手技、脳科学に基づいた揺らし療法、按摩やマッサージ的な揉み中心のものなどもあり、その手技は多岐にわたります。

 

海外では法制化されているカイロプラクティックやオステオパシーも、日本では法的資格制度が存在しないために、分類上は整体と同様に「その他の療術業」とされていて、公的な免許制度などはありませんので、特に資格などはなくても技術的なスキルがあれば開業できます。

 

整体を「体を整える」療術という広い意味でとらえれば、按摩もある種の「整体」といえるかもしれません。

 

※ 整体については様々な流派・会派があり定義づけることが難しい療術ですので、上記はあくまで個人的な見解となりますことをご了承ください。

 


 

6.リラクゼーション業とは

 

次はこちらも街中でよく見かける「リラクゼーション」ですが、一般的にはマッサージに類似した施術をおこなうところで、最近はメディア等でもこちらをマッサージ店と表現されることが多くなっています。

 

マッサージ行為を無免許でおこなうことについては以前から問題視はされおり、その歴史は意外に古く、昭和22年に「按摩はりきゅう柔道整復等営業法」が制定された際、それに該当しないサウナなどでの施術もあり、サウナ健康士という独自の認可資格によって暗にマッサージ行為をおこなえるという独自ルールもありました。

 

そうした現場たたき上げの施術者の中には高いスキルを持つ方もいらっしゃいましたが、バブル崩壊後の90年代半ばごろからは整体やマッサージ的な療術が急増し、過当競争による健康トラブルなども増えてきました。

 

2000年代からはリンパセラピーや海外の療術(タイ式、バリ式、台湾式、スウェーデン式、アーユルベーダ、ロミロミ、推拿)なども増え始め、アロマテラピーやリフレクソロジーなどは医療的なケアとしても取り入れられるようになりました。

 

2010年代に入ると格安の施術を売りにしたリラクゼーションのチェーン店が増加し、そうした現状を受けて総務省は2014年に日本標準産業分類に「リラクゼーション業(手技を用いるもの)」という業種を新設しました。

 

そうした流れの中で、様々な療術業やリラクゼーション業が「マッサージ」をうたわなければマッサージ行為をおこなえるという状況になり、現在は手技療法全般の総称としての広い意味でのマッサージが一般的になっています。

 


 

まとめ

 

長くなりましたが、日本標準産業分類(2013年10月改定)によると現在のマッサージ的な手技療法は大きく分けると次の3つになります。

 

1. あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所

あん摩、マッサージ、指圧や鍼灸、整骨院・接骨院など免許(国家資格)が必要な療術業

2. その他の療術業

整体やカイロプラクティックなどの手技療法や温熱療法、電気療法などの療術業

3. リラクゼーション業(手技を用いるもの)

リラクゼーションサロンやアロマテラピー、リフレクソロジーなどの事業所

 

マッサージについては、日本では法律の関係で免許取得者であるあん摩マッサージ指圧師以外は「マッサージ」という名称を使えないことになっていますので、その他の療術業やリラクゼーション業では「整体」や「ボディケア」「もみほぐし」などの名称で提供されています。

 

免許を必要としないその他の療術業には、業団体や業者による独自の認定資格などもあり、海外のマッサージは海外の公的資格をお持ちの方もいらっしゃいますが、日本では特に資格を持っていなくても施術はできます。

 

整骨院・接骨院でのマッサージ的な手技はケガの治療の後療法として行われるもので、柔道整復師や鍼灸の資格のみの場合はマッサージと称して行うことはできません。

 

現在は、街中に様々なマッサージ的サービスが溢れてますし、リラクゼーションをマッサージと呼ぶのも一般的になっており、本来はマッサージとは呼べませんが、名称などでマッサージという言葉を使っただけでは処罰の対象にはなりません。

 

※ 全国にチェーン展開しているリラクゼーション店などでは、マッサージという言葉を使わないよう配慮して、スタッフさんにも指導をされているようです。

 

現在は手技療法全般の広い意味での「マッサージ」という言葉が一般的になり、按摩もいつの間にかそこに埋没してしまいましたが、もみほぐしやボディケア、リラクゼーションや整体として提供されている中にも、按摩を模倣した施術は多く見られ、実は多くの方がいろんなところで按摩に近い施術を受けられてるということになります。

 

少しややこしくなりましたが、「按摩」は本来の日本のマッサージであり、現在のスタンダードとなっている揉みほぐすマッサージのルーツでもあるということになります。

 


 

最後に・・・

 

なぜスロウは「按摩」にこだわるのか

 

この日本の風土で独自に育まれた伝統の技も、最近では広義の「マッサージ」という名称で括られてしまい、「按摩」という呼び方は使われなくなっているように感じます。

 

江戸の昔より人々の生活に溶け込んでいた按摩・・・

いたわりの心をもって辛さや疲れを癒してくれる按摩・・・

その按摩の心地良さををいろんな方に見直していただければ・・・

 

そんな想いからスロウをご利用いただく皆さまには「マッサージ」ではなく、あえて「按摩」としてお伝えしています。

 

私の父も盲目だったために按摩を生業としておりました。

子供の頃はよく杖がわりとなって出張の按摩について行ってました。

治療という感じではなく、お客さんとのんびりお喋りなどしながら小一時間じっくり揉みほぐしていく。

今になって思うのは、按摩は娯楽でもあり、癒しだったなぁと・・・

 

何の因果か私も按摩を生業とするようになり、そんな按摩が好きになり、誇りをもって按摩をするようになりました。

 

この長い歴史を持つ伝統的な慰安の技が、また日常の暮らしの中にとけこんで、健康の一助として皆様に喜んでいただけるよう邁進していきたいと思っています。

 

古いやつではありますが、これからも日本のマッサージ「按摩」をよろしくお願いいたします。

 

スロウ店主・按摩師 品川 広昭